AC100Vの皮相/有効/無効電力〔3〕(電流位相:-30deg)

前回までの投稿は、AC100Vの電圧波形を基準にして、電流位相が「\(45deg\) 」や「\(30deg\) 」進んでいるときの話を書きましたが、今回は逆に「\(30deg\) 」遅れた、「電流位相\(:-30deg\) 」のときの話を書きます。

電流位相:-30degの回路

「電流位相\(:-30deg\) 」の回路ですが、今回は下のように「コンデンサー」が「コイル」に変わります。

電圧や抵抗などの値は下記になります。

・電圧振幅\((V_{peak}):141V\)

  ⇒電圧実効値\(:100V_{rms}\)

・抵抗値\((R):100Ω\)

・インダクタンス値\((L):551mH\)(ミリヘンリー)

・周波数\((f):50Hz\)

電圧や抵抗値、周波数はこれまでと同じですが、容量値「\(18.4\mu F\) 」がインダクタンス値「\(551mH\) 」に変わっています。

「周波数\((f):50Hz\) 」のときに、インダクタンス値「\(551mH\) 」のインピーダンス「\(Z_L\) 」は、下の式で計算できます。

$$Z_L=\omega L=2\pi fL$$

$$ =2\pi✕50✕551✕10^{-3} $$

$$ = 173(\Omega) $$

極座標の横軸方向の電流値は、今回も「抵抗値\((R):100Ω\) 」なので、「電圧/抵抗\(=\displaystyle\frac{100V_{rms}}{100\Omega} \) 」で計算できて「\(1.0A_{rms}\) 」になります。

ここで、抵抗とコイルを足し算した電流の位相を「\(-30deg\) 」にするには、縦軸方向の電流値を「\(1.0A_{rms}✕\tan(-30deg) \) 」にする必要があり、これを計算すると「\(-0.577A_{rms}\) 」になります。

文章だけだと伝えづらいので、次の項の二つ目に出てくる極座標グラフ「交流電流(実効値)」を、前倒しでここに貼りつけておきます。

青色の矢印を基準に、紫色の矢印の角度が「\(-30deg\) 」になるためには、青色の矢印の長さが「\(1.0A_{rms}\) 」のとき、赤色の矢印の長さは上の計算から「\(-0.577A_{rms}\) 」になる必要があります。

コイルの電流値の大きさが「\(0.577A_{rms}\) 」になるためには、コイルの「インピーダンス\(:Z_L\) 」は「電圧/電流\(=\displaystyle\frac{100V_{rms}}{0.577A_{rms}} =173\Omega\) 」になる必要があります。

コイルの「インピーダンス\(:Z_L\) 」が「\(173\Omega\) 」になるときのコイルのインダクタンス値は、上の方に書いた式を逆から計算すると「\(551mH\) 」になることが分かると思います。

それでは次の項で、電圧、電流、電力の極座標について書きます。

「電流位相:-30deg」での電圧、電流、電力の極座標

今回も最初は、基準となる電圧の極座標です。

電圧の極座標はこれまでと同じ、電圧の大きさは\(100V_{rms}\)、位相が\(0deg\)です。

グラフには\(100V_{rms}\angle 0deg\)と書いています。

次もこれまでと同様に、抵抗とコイルに流れる電流を極座標に描きます。

紫色の矢印は、抵抗とコイルの電流を足し合わせた電流を表します。

前回の投稿との違いは、縦軸の電流が「\(0.577A_{rms}\) 」から「\(-0.577A_{rms}\) 」になっている点です。

縦軸の「電流の大きさ」と「位相」の表記は、「\(0.577A_{rms}\angle -90deg\) 」になります。

この青色と赤色の矢印の「電流の大きさ」を使って、紫色の矢印の「電流の大きさ」と「位相」を計算します。

前回と同様、紫色の矢印の長さ(電流の大きさ)\(:I_{r+L} \)は、三平方の定理で下のように計算できます。

$$ I_{r+L} =\sqrt {Ir^2+I_L^2} $$

$$ =\sqrt {1^2+0.577^2} $$

$$ =1.15 (A_{rms}) $$

位相:\(\theta_{r+L}\)も、前回と同様に下のように計算できます。

$$\theta_{r+L} = \arctan \left(\displaystyle\frac{I_L}{Ir} \right) $$

$$ = \arctan \left(\displaystyle\frac{-0.577}{1} \right) $$

$$ =-30 (deg) $$

「\(\arctan\) 」は、パソコンの関数電卓で計算するときには「三角関数⇒2nd⇒\(\tan^{-1}\) 」を使います。

「電流の大きさ」と「位相」をまとめると、紫色の矢印は下のグラフに書いたように「\(1.15A_{rms} \angle -30deg\) 」になります。

電圧と電流の「大きさ(実効値)」と「位相」が分かったので、次に電力を求めます。

電力は、基本的に電圧と電流の掛け算で求まりますが、今回のように「極座標」と「極座標」の値を掛け算するときには、「矢印の長さ」はそのまま掛け算して、「位相」は足し算になります。

具体的には、下のような計算になります。

$$\dot{V} \times \dot{I} = (100V_{rms}\angle 0deg) \times (1.15A_{rms}\angle -30deg) $$

$$ = (100V_{rms} \times 1.15A_{rms}) \angle (0deg-30deg) $$

$$ = 115VA\angle -30deg $$

「\(V\) 」と「\(I\) 」の上にドットを付けていますが、これはこの記号が極座標上の値で、大きさ(矢印の長さ)と方向(位相)をもっていることを表します。

上の計算で求めた電力は「皮相電力」とよばれ、極座標では下の紫色の矢印になります。

前回も書きましたが、この「皮相電力」の「電圧」と同じ「位相:0deg 」の方向の大きさを「有効電力」とよび、「電圧」の位相と直交している「位相:90deg 」の方向の大きさを「無効電力」とよびます。

下の極座標のグラフに、それぞれの電力を示します。

一般に言われる「消費電力」は、青い矢印で表した「有効電力」になります。

三角関数を使って、有効電力と無効電力の値を計算すると下記になります。

有効電力\((W)= \)皮相電力\((VA)✕ \cos \theta\)

     \(= 115(VA)✕\cos (-30deg) \)

     \(= 115(VA)✕ 0.866\)

     \(= 100(W)\)

無効電力\((var)=\) 皮相電力\((VA)✕ \sin \theta\)

     \(= 115(VA)✕\sin (-30deg) \)

     \(= 115(VA)✕ -0.5\)

     \(= -57.7(var)\)

上の式で計算した「\(100(W)\) 」と「\(-57.7(var)\) 」は、上の式の計算に使用した3桁くらい値から、もう少し桁数を増やした値を使った計算結果です。

例えば桁数を5桁まで増やすと、「\(115.47(VA)✕ 0.86603 = 100.00(W)\)」や「\(115.47(VA)✕ -0.5 = -57.735(var)\) 」になります。

上の式の「\(100(W)\) 」や「\(-57.7(var)\) 」は、これらの計算結果を四捨五入して3桁表示にしたものです。

自分の手元に、2種類のサーキュレーターの有効電力、無効電力、皮相電力などのデータがありますので、次回はこれらのデータを使ったグラフを作成してみようと思います。

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