AC100Vの皮相/有効/無効電力〔4〕(家電製品での実測値)
ここまで、抵抗、コンデンサー、コイルの回路を使って電力の話を書いてきましたが、今回は実際に家電製品で測定した「皮相電力」「有効電力」「無効電力」について書きます。
家電製品の例:サーキュレーター
今回使ったのは、「A社」と「Y社」のサーキュレーター2台です。
サーキュレーターの画像例を下に貼り付けます。
扇風機のような外見ですが、送り出す風に指向性があり、部屋の空気を循環させたり、部屋の空気を入れ替えたり、洗濯物に風を当てて乾かしたりするときなどに使います。

次に、今回使用した2台のサーキュレーターの大まかな仕様を下の表に書きます。

この2台のサーキュレーターは、両方とも回転羽根を「ACモーター(交流モーター)」で回すタイプです。
AC100Vの電源プラグ側からこのサーキュレーターの内側を見ると、ほぼ「抵抗」と「コンデンサー」と「コイル」の組合せなので、電源電圧に対する電流の位相は「\(-90\sim +90 deg\) 」の間に入ります。
今回行った測定の流れを下に示します。

上の8個の□の中に書かれている各状態において、上から30秒ずつ電力を測定し、順番に下の方へと進みます。
一部、「A社」と「Y社」の片方だけという項目があります。
それでは早速、「A社」の測定結果から書きます。
「A社製サーキュレーター」の電力測定結果
電力などの測定値をまとめた表は下になります。

表には「皮相電力」から「力率」までの測定値を書きましたが、この製品は電源プラグをコンセントに差したときに一瞬だけ電流が流れ、そのあとは運転開始までの「運転停止」中はほとんど電流が流れなかったので、電源プラグを差した瞬間の測定値を「プラグ差」の項目として表に書きました。
これらの測定値に、「電流」を白い点線で加えたグラフを下に示します。


「プラグ差」時の位相は、ほぼ「\(+90 deg\) 」なので、これはサーキュレーターの中の「コンデンサー」に一瞬電流が流れたように見えます。
サーキュレーター内部で、交流電圧から直流電圧を作る回路が立ち上がる一瞬だけ「コンデンサー」に電流が流れたようです。
ただ、その後は電流がほとんど流れず、位相差や力率が測定できなくなりました。
30秒経過後に、送風を「弱」から「最強」まで順番に4段階上げて、そのあと送風を停止すると、再び電流がほぼ流れなくなっている様子が、グラフから分かると思います。
それでは、測定できた5つの状態での「皮相電力」「有効電力」「無効電力」を極座標で表したグラフを順番に下に示します。
それでは、最初の「プラグ差」時のグラフです。

一瞬電流が流れましたが、ほとんどが無効電力で、皮相電力の位相が「\(+86 deg\)」なので、ほぼコンデンサーに電流が流れたと考えられます。
この電流が一瞬流れたあとは電流がほとんど流れず、このサーキュレーターは電源プラグを差したままでも、ほとんど電力を消費しないことが分かります。
次に、「弱運転」時のグラフです。

ひとつ前のグラフの横軸の両端は「\(\pm 1.5W\) 」ですが、今回は「\(\pm 40W\) 」です。
有効電力は「\(23.2W\) 」で、力率は「\(0.95\) 」なので、皮相電力と有効電力の差が小さくなっています。
次は、「中運転」時のグラフです。

「中運転」時の有効電力は「\(25.1W\) 」と「弱運転」時より増えますが、力率は「\(0.97\) 」なので、皮相電力との差は「弱運転」時よりさらに小さくなります。
次は、「強運転」時のグラフです。

「強運転」時の有効電力は「\(27.1W\) 」と「中運転」時より増えますが、力率は「\(0.98\) 」なので、皮相電力との差は「中運転」時よりさらに小さくなります。
最後は「最強運転」時のグラフです。

「最強運転」時の有効電力は「\(31.0W\) 」と「強運転」時より増えますが、力率は「\(1.00\) 」なので、有効電力と皮相電力の値は、ほぼ等しくなります。
ただ、無効電力がマイナスからプラスになっているので、無効電力に寄与する負荷は「コイル」より「コンデンサー」の方が大きくなっています。
「A社製サーキュレーター」は、全体を通して力率が「\(1.0\) 」に近く、「無効電力」が少ないという結果です。
それでは次に、「Y社製サーキュレーター」の電力を見ていきます。
「Y社製サーキュレーター」の電力測定結果
先ほどと同じように、電力などの測定値をまとめた表を下に示します。

「A社製サーキュレーター」と異なり、「運転停止」時にも測定可能な電流が流れています。
そのため、表に「プラグ差」時の項目は入れず、「運転停止」時の測定値を表に書いています。
これらの測定値に、「電流」を白い点線で加えたグラフを下に示します。


プラグを差した直後の「運転停止」時でも、「\(0.14A\) 」の電流が流れています。
これがもし、電圧と同じくらいの位相なら電気代が結構かかりますが、位相が「\(90deg\) 」近く遅れているので、電気代がかかる有効電力は「\(0.9W\) 」と少なめです。
ただ、「A社製サーキュレーター」はほぼ「\(0W\) 」だったので、少し気になる値です。
それでは、測定した4つの状態での「皮相電力」「有効電力」「無効電力」を極座標で表したグラフを順番に示します。
最初は「運転停止」時のグラフです。

先ほども書いたように、「\(0.14A\) 」の電流が流れていますが、電圧の位相に対して「\(86deg\) 」遅れているので、電力としてはほとんど「無効電力」になっており、課金の対象となる「有効電力」は一桁以上小さな値です。
次に、「弱運転」時のグラフです。

一つ前のグラフの横軸の両端は「\(\pm 15W\) 」ですが、今回は「\(\pm 80W\) 」です。
有効電力は「\(34.7W\) 」で、電圧と電流の位相差は「\(41deg\) 」、力率は「\(0.76\) 」になります。
そのため、サーキュレーターの中で消費される電流に対して、消費されない無効な電流が30%以上流れていることになります。
残りの「中運転」と「強運転」のグラフは、まとめて書きます。


「弱運転」「中運転」「強運転」の順に、全体的に電力は増えています。
ただ、自分のイメージだと、「強運転」のときに「力率」は一番「\(1.0\) 」に近づくように思いましたが、「弱運転」の方が「\(1.0\) 」に近いのが意外でした。
「弱運転」がよく使われると考えてそうしているのか、あるいは何も考えていないかだと思います。
「力率」という点で見ると、「A社製サーキュレーター」の方が良い設計になっていると思います。
「運転停止」時に、ほとんど電流が流れない点でも「A社製サーキュレーター」の方が優れていると思います。
「無効電流」は、コンデンサーやコイルにエネルギーとして蓄えては放出されるので、サーキュレーターの中で仕事をしない電流です。
それでも電流は実際に流れるので、発電所から自宅までの送電線は、その電流も流せるように電線を太くしておく必要があります。
これは、電力会社にとっては負担なので、電気料金の契約の種類によっては「力率」で基本料金が高くなったり、安くなったりします。
ただ、一般的な家庭の契約は「従量電灯プラン」だと思いますので、「力率」による電気料金の増減は無いと思います。
さて、これまで「抵抗」「コンデンサー」「コイル」にAC100Vを接続したときの「皮相電力」「有効電力」「無効電力」の話を書いてきました。
ただ、AC100Vに接続する「抵抗」や「コンデンサー」などは、並列に接続していました。
並列に接続すると、「抵抗」や「コンデンサー」などが直接AC100Vに接続されるので、「抵抗」に流れる電流、「コンデンサー」に流れる電流などを個別に計算でき、それらを足し合わせると全体の電流が分かるためです。
「抵抗」と「コンデンサー」などを、例えば直列に接続すると、上に書いたように電流を簡単に計算できなくなります。
このような計算を行う方法を知るために、これからは「極座標」を「複素平面」で表現する方法について書いていこうと思います。
まず、「複素平面とは」というテーマで書こうと思いますが、その前に加湿器の小ネタを一つはさむ予定です。
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