コイルに加えた交流電圧・電流〔2〕(交流の電圧波形から電流波形をイメージ)

前回は、計算式を使って電圧波形から電流波形を求めましたが、今回は電圧波形から電流波形をイメージしていきます。

想定する回路と電圧波形

想定する回路は前回と同じで下記になります。

条件も前回と同じで下記になります。

・周波数:\(f=50Hz\)

・交流電圧:\(V=100V_{rms}\)

・インダクタンス:\(L=0.32H\)(ヘンリー)⇒ \(\omega L=2\pi f L=2\pi✕50✕0.32=100\)

それでは次の項で、「\(V(t)\) 」の波形から「\(I(t)\) 」の波形をイメージしていきます。

経過時間:t=0msの波形

まずは「経過時間:\(t=0ms\) 」のときの波形の変化を考えます。

青い線で描いたのが「交流電圧:\(V(t)\) 」の波形で、その下に赤い線で描いたのがコイルに流れる「交流電流:\(I(t)\) 」の波形です。

「経過時間:\(t=0ms\) 」での波形の位置を、太い線で示しています。

コイルの場合、両端の電位差が「\(0V\) 」だとコイルに流れる電流は変化しなくなりますが、電流がゼロになるのではなく、その時点での電流値を保ちます。

これはコイルに電気抵抗がなく、コイルが理想的な場合の話です。

電位差が小さいときには電流はゆっくりと、電位差が大きいときには電流は大きく変化し、電位差がゼロだとコイルに流れる電流は変化しません。

このような動作を念頭に右上のグラフの青い太線を見ると、電位差は0V付近になっていて、マイナスからプラスに変化しているので、コイルに流れる電流は降下から上昇に転じます。

その様子は、右下のグラフの赤い太線の電流の変化と一致しています。

左の位相を表す単位円のグラフを見ると、電流の位相は電圧に比べて「\(\displaystyle\frac{\pi}{2}(⇒90°)\) 」遅れています。

コイルの電圧と電流の関係はイメージしにくい?(わき道です)

コイルの電圧と電流の関係は、コンデンサーより少し分かりづらく感じます。

コンデンサーの場合、過去の投稿で書きましたが、ドラム缶に水を入れていくと水面が上がるように、流す電流に比例して電圧が変化するのでイメージしやすいと思います。

コイルの場合は、コイル両端の電圧が一定なら電流は一定の傾斜で変化しますが、その傾斜は一般的に急なので、現実問題としてコイルに流れる電流はあっという間にコイルの許容電流値を超えてしまいます。

コンデンサーよりコイルの方がイメージしづらいのは、現実のコイルに定電圧源を接続すると、一瞬で大きな電流がコイルに流れてコイルが壊れるというイメージがあるからかもしれません。

前の投稿で使用した式を少し変形して、具体的な数字で確認してみます。

$$V(t)=L\displaystyle\frac{dI(t)}{dt}$$

$$L\displaystyle\frac{dI(t)}{dt}=V(t)$$

$$\displaystyle\frac{dI(t)}{dt}=\displaystyle\frac{1}{L}V(t)$$

もし、「インダクタンス値:\(L=0.32H\)」のコイルに「定電圧:\(V=1V\)」を接続すると下記になります。

$$\displaystyle\frac{dI(t)}{dt}=\displaystyle\frac{1}{L}V(t)=\displaystyle\frac{1}{0.32}✕1=3.125(A/s)$$

このコイルに1Vの電圧を接続すると、1秒間に3.125Aずつ電流が増えていくことになります。

ただ、「インダクタンス値:\(L=0.32H\)」のコイルというと、これまで自分は使ったことがないくらい大きなインダクタンス値です。

通常使うコイルのインダクタンス値はこの1000分の1以下で、ほとんどが\(0.1mH\)以下でした。

流せる電流も\(1A\)以下なので、1000分の1秒以下で許容される電流値を超える計算です。

そんなコイルは、コンデンサーと逆の性格と考えると理解しやすいかもしれません。

コンデンサーに定電流源を接続すると、一定のペースで電圧が変化していきますが、コイルに定電圧源を接続すると、一定のペースで電流が変化していきます。

コンデンサーとコイルでは、だいたい電流と電圧が逆になるイメージです。

経過時間:t=5msの波形

話を戻して、「経過時間:\(t=5ms\) 」のときの電流波形を考えます。

「経過時間:\(t=5ms\) 」のときの波形の位置を、太い線で示します。

「経過時間:\(t=5ms\) 」のときの電圧の青い太線を見ると、電位差が+141Vと最大なので、コイルに流れる電流は最大傾斜で上昇していきます。

その様子は、右下のグラフの赤い太線の変化と一致しています。

左の位相を表す単位円のグラフを見ると、電流波形の位相は電圧波形に比べてやはり「\(\displaystyle\frac{\pi}{2}(⇒90°)\) 」遅れていることが分かります。

経過時間:t=10msの波形

次に、「経過時間:\(t=10ms\) 」のときの電流波形を考えます。

ここでも「経過時間:\(t=10ms\) 」のときの波形の位置を、太い線で示します。

「経過時間:\(t=10ms\) 」のときの電圧の青い太線を見ると、電位差は0V付近をプラスからマイナスに変化しているので、コイルに流れる電流は上昇が止まり、下降に転じます。

その様子は、右下のグラフの赤い太線を見ると分かると思います。

左の位相を表す単位円のグラフを見ると、電流波形の位相は電圧波形に比べてやはり「\(\displaystyle\frac{\pi}{2} (⇒90°) \) 」遅れています。

経過時間:t=15msの波形

最後に、「経過時間:\(t=15ms\) 」のときの電流波形を考えます。

ここでも「経過時間:\(t=15ms\) 」のときの波形の位置を、太い線で示します。

「経過時間:\(t=15ms\) 」のときの電圧の青い太線を見ると、電位差は-141Vとマイナス側の最大なので、コイルに流れる電流は最大傾斜で降下します。

その様子は、右下のグラフの赤い太線を見ると分かると思います。

左の位相を表す単位円のグラフを見ると、電流波形の位相は電圧波形に比べてやはり「\(\displaystyle\frac{\pi}{2} (⇒90°) \) 」遅れています。

コイルに交流電圧を接続したときに、コイルに流れる電流は常に位相が「\(\displaystyle\frac{\pi}{2} (⇒90°) \) 」遅れることが分かると思います。

次回は、コンデンサーのときと順番が逆ですが、コイルに電流源を接続した場合について書いていきます。

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