交流電源の実効値
「直流と交流の違い」の投稿では「実効値」のことを書き忘れていたので、いつものように家庭用の交流電源を例にとって実効値の話を書きます。
想定する交流電源
何度も登場しますが、今回も下記のような一般的な家庭用交流電源について考えます。
具体的には、波形振幅は「\(V_{peak}=100\sqrt2≒141\)」で単位は「V」です。
次に「角周波数:ω」は、「周期:20ms」なので「周波数:50Hz」となって「\(\omega=2\pi f=2\pi 50=100\pi\)」となります。
「角周波数:ω」の単位は「rad/s」で、1秒間当たりに角度が何rad変化するかを表します。
さて、このグラフの電圧は+141Vから-141Vまで連続的に上下しますが、この電圧は何Vになるのと聞かれると、ちょっと困ると思います。
そこで使用されるのが、電圧や電流の実効値です。
交流電圧の実効値
まずは「直流電源:VDC」を「抵抗:R」に接続した回路を考えます。
このとき、「抵抗:R」で消費される「電力:PDC」は下の式で計算できます。
$$P_{DC}=V_{DC}✕I_{DC}$$
$$=V_{DC}✕\displaystyle\frac{V_{DC}}{R}$$
$$=\displaystyle\frac{V_{DC}^2}{R}$$
次に、「交流電源:VAC」を「抵抗:R」に接続した回路を考えます。
この回路図では、電圧と電流を「VAC(t)」「IAC(t)」と書いていますが、これは時間の経過ととも瞬間、瞬間で変化する瞬時値を表します。
今回テーマの実効値は時間に依存しないので、「(t)」を除いた「VAC」「IAC」を電圧と電流の実効値の記号とします。
この回路の「抵抗:R」で消費される「電力:PAC」は、直流電源と同様に下の式で表すことができます。
$$P_{AC}=V_{AC}✕I_{AC}$$
$$=V_{AC}✕\displaystyle\frac{V_{AC}}{R}$$
$$=\displaystyle\frac{V_{AC}^2}{R}$$
交流の電圧や電流の実効値は、この消費電力「PDC」と「PAC」が等しくなる電圧値や電流値と定義されます。
式で表すと、下のようになります。
$$P_{DC}=P_{AC}$$
$$\displaystyle\frac{V_{DC}^2}{R}=\displaystyle\frac{V_{AC}^2}{R}$$
この電圧の実効値「\(V_{AC}\)」の単位には「V」も使われますが、実効値であることを強調するときには「Vrms」を使用します。
この「rms」が何を表すのかを次に書きます。
電圧の実効値と瞬時値の関係式
直流だと電圧も電流も一定ですが、交流の場合は電圧が下のグラフのように変化します。
この交流電圧源に、「抵抗:R=100Ω」を接続したときの消費電力の瞬時値をつないでいくと下のグラフになります。
消費電力の瞬時値を一か所計算してみます。
最初の方で書いた「\(V_{peak}=100\sqrt2\)」の瞬間の消費電力は下記になります。
$$P_{peak}=\displaystyle\frac{V^2_{peak}}{R}$$
$$=\displaystyle\frac{(100\sqrt2)^2}{100}$$
$$=100✕(\sqrt2)^2$$
$$=100✕2$$
$$=200$$
これは「経過時間:t=5ms」のときなどに相当します。
交流での消費電力を計算するには、このグラフの消費電力の平均値を計算する必要があります。
消費電力の瞬時値の平均値を見た目に分かりやすくしたグラフは下になります。
瞬間、瞬間の消費電力は、このグラフで塗りつぶした部分の面積になります。
このグラフを見れば、わざわざ計算しなくても消費電力の平均値は100Wだと分かると思います。
グラフで見ると分かりやすいのですが、式にすると意外と面倒です。
「直流と交流の違い〔8〕」で求めた式で消費電力:PAC(W)を表すと下記になります。
$$P_{AC}=\displaystyle\frac{1}{T}\lim_{n \to ∞}\sum_{k=1}^{n} \left(\displaystyle\frac{\left(V_ {peak} \sin \left(\omega \displaystyle\frac{kT}{n} \right) \right)^{2}}{R} ✕ \displaystyle\frac{T}{n} \right)$$
「T」は交流の周期で、「周期:T=20ms」です。
この式の「\(\lim \sum ( )\)」の部分で面積を計算していて、これを「周期:T」で割ると交流の平均消費電力が求まります。
この「\(\lim \sum ( )\)」で計算しているのはエネルギーで、単位は「 J(ジュール)」です。
これを時間(周期:T)で割り算するので、単位は「 J/s=W」という関係です。
この「\(\lim \sum ( )\)」を積分で表すと下記になります。
$$P_{AC}=\displaystyle\frac{1}{T}\int_{0}^{T}\displaystyle\frac{(V_ {peak} \sin (\omega t))^{2}}{R}\, dt$$
今回はこの式を解きませんが、「直流と交流の違い〔11〕」で解いているので、興味のある方は参考にしてください。
実効値の単位:Vrmsの「rms」とは?
ここからは、「交流電圧の瞬時値:Vpeak」で「交流電圧の実効値:VAC」を表す式を求めて、単位が「Vrms」になる理由を書きます。
$$P_{AC}=\displaystyle\frac{1}{T}\int_{0}^{T}\displaystyle\frac{(V_ {peak} \sin (\omega t))^{2}}{R}\, dt$$
$$\displaystyle\frac{V_{AC}^2}{R}=\displaystyle\frac{1}{T}\int_{0}^{T}\displaystyle\frac{(V_ {peak} \sin (\omega t))^{2}}{R}\, dt$$
$$V_{AC}^2=\displaystyle\frac{1}{T}\int_{0}^{T}(V_ {peak} \sin (\omega t))^{2}\, dt$$
$$V_{AC}=\sqrt{\displaystyle\frac{1}{T}\int_{0}^{T}(V_ {peak} \sin (\omega t))^{2}\, dt}$$
この「交流電圧の実効値:VAC」の単位が「Vrms」になる理由は下記になります。
この「V」のあとの「rms」は「root mean square」の頭文字です。
「電圧の振幅:Vpeak」に注目して上の式を見ると、最初に瞬間、瞬間で変化する「電圧の瞬時値:VAC(t)=Vpeak sin(ωt)」を2乗(square)して抵抗:Rで割ることで、瞬間、瞬間の消費電力を計算しています。
次に瞬間、瞬間の消費電力を0~T秒の間で平均(mean)して、交流の消費電力を求めます。
最後に求めた交流の消費電力に抵抗:Rを掛けて平方根(root)を計算すると、「電圧の瞬時値:VAC(t)=Vpeak sin(ωt)」から「電圧の実効値:VAC」を計算することになります。
「root mean square」の後ろからですが、「square」「mean」「root」の順に計算するので、交流電圧の実効値:VACの単位には「Vrms」が使用されます。
ただ「Vrms」と書かず、「V」を使用する場合も多いので、前後の流れから判断する必要があります。
もう少し分かりやすく書けると思っていましたが、意外と難しかったです。
次回は、交流の電流源とコンデンサーを接続したときの話を書こうと思います。
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